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巻頭言(Vol.32 No.8)2010.8.17

「悪魔退くる力なきものの行為の半は其身もまた悪魔なれば也。已に業に其身悪魔の行為なりて悪魔を退けんは難し」一九一三年八月一日、足尾鉱毒との闘いに命をかけた田中正造は日記に記し、翌日に倒れた。再び立てず九月四日に逝く。菅笠と合切袋一つをのこした。中には帝国憲法とマタイ伝を綴じたもの、渡良瀬川の石があった。
 田中正造は三宅雄二郎宛書簡(明治三七年一一月二六日)のなかで「戦争の罪悪は論を要せず」として「戦争は必要なりとする事ありとするも、我国の内政の如き、公盗横行の政府にして妄りに忠直の人民を殺すことを敢えてするものの戦争を奨励するに至りて言語道断なり」と述べている。戦争は罪悪であり世界の軍備は全廃すべきである(正造翁談)とした思想は、「戦争は正義」とされた時代にあってまことに偉大であった、と言わざるを得ない。その田中正造に狂歌集がある。そのいくつかである。
人ハ皆桜のころになりにけりうかれあつまる人の花山
各々が我田に引ける水ほどのすめる心を持つ人ぞなき
よの人のあわれをおもふ真心の尚つれなきぞ秋の夕ぐれ
天が下見れバ社会は面白し山田かかしも雪のだるまも
 足尾鉱毒事件に私財を擲って闘い信玄袋ひとつ遺して逝った田中正造に、世の中は面白い、山田のかかしも雪だるまも、と詠んだ狂歌があった。歌詠みは柔らかな心と同時に社会に対する厳しい判の目を持たねばなるまい。 (松岡)

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