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巻頭言(Vol.32 No.4)2010.4.05

西洋の詩人T・Sエリオットは四月は残酷な季節と詩ったが、日本ではやはり桜さくらである。まさおなる空よりしだれざくらかな、という富安風生の伏姫桜を詠んだ句碑が市川の弘法寺の境内にある。まこと見事な桜である。
 桜といえば、やはり、西行の、ねがはくは花の下にて春しなんそのきさらぎの望月の頃ころ、である。花とは勿論桜。
兵衛尉佐藤義清は、保延年(一一四〇)二十四歳の若さで有望な官途を捨て、出家して「西行」と名乗った。西行の出家の動機を、川田順(『西行』)は厭世説、恋愛原因説、政治原因説、とその総合原因説をあげているが、藤岡作太郎の「西行にとりては和歌は遊戯文学にあらず、擅ほしいままに山川花月に対して、おのが感情を述べんとするにあり」(『異本山家集』として天性の詩人は詠歌を余技とする官人に飽きたらず遁世の道を選んだとする説を採りたい。
 世を厭いもし恋に破れたことも政治に無常を覚えたこともあろう。しかし、畢竟、西行は和歌に出家したのである。詩歌に出家したのである。西行にとり桜の花は和歌であり詩歌の象徴であった。詩歌の下で死ぬことを願ったのである。
 歌人はすべからく詩歌に出家しなければならない。日常生活から出家して詩歌の世界に入りまた其処をでて現実世界に戻る。そしてまた詩歌の世界に没入しまた戻る。その往還こそ歌人の生きる道であると愚考する。 (松岡)

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