巻頭言(Vol.32 No.3)2010.3.04
月日は百代の過客にして行きかふ年も又旅人也。舟の上に生涯を浮かべ、馬の口をとらえて老をむかふる者は日々旅にして旅を栖とす。と歳月も生涯も旅と観じた松尾芭蕉は、古人も多く旅に死せるありとして、元禄二年弥生三月も末の日奥羽長途の行脚「奥の細道」の旅に出立します。
芭蕉は漂泊の詩人と云われます。旅の詩人です。旅の中に自己の新しい俳諧すなわち文学を発見していったのです。尾形によれば、「野ざらし紀行」「鹿島詣」「笈の小文」「更科紀行」は俳壇の低迷を打破し、漢詩文調以後の新しい俳風を開発するための芸術的営為にほかならなかったわけであり「崩壊した都市俳壇にかわって台頭してきた地方俳壇を歴訪することによって、新風の伴侶としての新しい連衆との出会いを求め、またひとつには、各地の歌枕を巡礼することによって、古人の詩心の伝統を探り、そこに新しい創造への源泉を汲もうとした」のです。「奥の細道」の旅で〝かるみ〟の志向と〝不易流行〟の理念を発見したといえます。
与謝野晶子は、鉄幹が常に新しい歌を詠んでいったと言っています。歌詠む者は、言い換えれば文学を志すものは、いや、あらゆる分野において、新しきを求め自己改革することにこそ創作の意味がある事を認識したい。 (松岡)
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