会員のブログ
巻頭言(Vol.31 No.11)2009.11.04

台風の影響で外は激しい雨。私は何をするとも無く外を眺めながら、ふと若い頃に歩いた奈良の芋峠の野仏や夏に行った鋸山の磨崖仏を思った。あの仏達は今激しい雨の中に身を晒しながら、ひっそりと佇んで居るのであろう。人知れず何百年の歴史を刻みながら、風雨や炎天を佇み続ける野仏や磨崖仏に私は言い知れぬいとおしさを感じた。西村公朝は「祈りの造形」日本放送出版協会)の中で、「私にとりましては、この道端で苔むしている石仏こそ、まさに如の世界観をあらわしているといえるのです。お堂にまつられている仏像よりも、この方がはるかに大きなスケールです。周囲の景色そのものが仏殿なのですから。そして、石仏の前にある雑草や花こそ、自然の供物といえましょう。」と述べている。
 私はこの文章に強く心引かれる。人々に珍重され崇められる仏像よりも、天然自然の中で自在に姿を変化させながら佇み続ける仏像こそ私は美しいと思う。阿部先生は私の最初の歌集「能登」の扉の写真に大切にしていらっしゃった野仏の拓本をくださった。そのお心は正にこの西村公朝の文章に凝縮されているのではあるまいか。そしてそれはそのまま歌人としての心構えを私にくださったのだと、今にしてしみじみ思う。
 阿部先生は、繰り返しおっしゃった。「歌人に素人も玄人もない。真に大切なのは、どれ程良い歌を作ったか。真に感動にあたいする歌を作ったか。それが歌人の全てなのだ。」と。それは私に野仏の様な歌人になれと先生が暗に諭されたことなのであった。 (髙﨑)

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