会員のブログ
巻頭言(Vol.31 No.10)2009.10.01

富士正晴の「わが書斎兼客室兼寝室の前に、半坪ばかりの細長い池がある。」で始まる「蛙の声」と言う文章に「数年前、ラジオの録音にきた放送局の人が蛙の多さと、蛙の声にあきれた。これから蛙の声がいる時はここへ来ればいいわけですねえといった。いっただけで取りには来ないが、そういいたいほど、夏蛙の鳴声は猛烈である。」とある。四十年前の大阪府茨木市の自宅での事。ちなみにこの文章は「三島由紀夫が蛙の声を聞いてあれは何の声かとたずねた話は何かあわれである。」で終わる。

 四年後の鴨川の私の住む家の周囲で田植が始まる四月頃からこの猛烈な蛙の声は終夜止む事は無い。しかし稲刈りが終るの末にはぴたりと止む。いったいあの沢山の蛙はどこへ行ってしまったのか。土に潜って冬眠してしまったのだろうか。代って斉に虫が鳴き出す。今までどこに居たのかと思う程に色々な虫の音がかまびすしい。そして見上げると空は深く澄んで、も星も輝きを増している。日中の暑さにげんなりして夏を引き摺っている人間を尻目に季節は瞬時に見事な引き継ぎを終えてしまった。

 田舎暮しを始めて三年目、まだまだ地球は豊かな星である事を実感する。この豊かな星を私達は次世代に残して行くべき責任を持つ。地球温暖化を食い止める為、先進国と言われる国に住む私達は、真剣に便利である事について考える必要があるのではあるまいか。全ては便利を求める人間の欲望から生じた科学や文明の進歩がもたらしたものであるからだ。そしてその欲望は人の心までも破壊している。九月九月の初め、銀座を歩きながら高層ビルの谷間で私は悪寒を禁じ得なかった。 (髙﨑)

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